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浦和家庭裁判所熊谷支部 平成8年(家)1353号

主文

本件申立てを却下する。

理由

第1申立ての要旨

申立人は、その申立書の「申立の実情」欄に次のとおり記載して、亡寺田加代(以下「亡加代」という。)が平成7年5月20日に別紙写しのとおりの「不動産死因贈与契約証」(以下「本件死因贈与契約証」という。)を以てなしたと主張する死因贈与についての履行執行者を選任するよう求めた。

「贈与者寺田加代は受贈者西山研士との間で平成7年5月20日、左記不動産につき死因贈与契約を締結していたところ、平成7年12月16日死亡した。しかしながら、右死因贈与につき、履行執行者の指定又は指定の委託がないので、本申立に及ぶものである。

(不動産の表示)

一  埼玉県熊谷市○○×丁目××番地所在

宅地 648.36平方メートル

二  埼玉県熊谷市○○×丁目××番地所在

木造瓦葺平屋建 幼稚園 126.28平方メートル

木造瓦亜鉛メッキ鋼板葺二階建居宅・物置

一階 186.31平方メートル

二階  64.61平方メートル

遺言執行者候補者

本籍 東京都武蔵野市○○×丁目××××番地

住所 東京都世田谷区○○○×丁目×番××号

氏名 今村宗一郎

昭和9年10月12日生

職業 弁護士

贈与者との関係 特になし

連絡先 東京都中央区○○×丁目×番×号

△△ビル×階

今村法律事務所

電話××-××××-××××」

第2当裁判所の判断

1  本件記録中の諸資料、家庭裁判所調査官○○作成の調査報告書によれば、次の事実が認められる。

(1)  亡加代(大正2年5月20日生)は、平成7年12月16日に死亡した。

(2)  亡加代死亡当時の身分関係は、別紙調停申立書の写し中の身分関係図記載のとおりで、同図に(相1)ないし(相16)と付記された16名が法定相続人であったところ、そのうちの西山英樹から、弁護士今村宗一郎(以下「今村弁護士」という。)を代理人として、平成8年4月25日、東京家庭裁判所に、そのほかの相続人らを相手方とし西山研士(西山英樹とその後妻邦子との間の長男、本件申立人)を利害関係人と表示して、亡加代の遺産の分割を求める調停の申立てがされた(平成8年(家イ)第2487号、以下「別件調停事件」という。)。

(3)  上記調停の申立書の内容は、別紙調停申立書の写しのとおりである。

(4)  平成8年10月5日に浦和家庭裁判所から本件の回付を受けた(本件の申立ては最初浦和家庭裁判所になされた。)当裁判所は、申立書に添附されていた署名部分のみ手書き(真実亡加代の筆跡か否かも不明)で、その他はすべてワープロないしパソコンによる活字の印刷文字という本件死因贈与契約証の写しだけでは、利害関係人の意見も聴かずに、申立人の主張を全面的に信用して、この文書を亡加代作成の真正な文書と判断して、死因贈与の事実を認定し、その執行者の選任をするわけにはいかないため、平成8年10月16日に家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)に対し、調査事項を「本件死因贈与契約書作成の経緯、他に利害関係を有する者がいれば、その者からの意見の聴取(署名の筆跡が本人のものかどうかも確認して下さい)」と記載して、事実調査を命じた。

(5)  西山英樹は、平成8年11月23日に死亡した。

(6)  西山英樹の法定相続人は、先妻の後藤陽子(昭和30年11月22日協議離婚)との間の長男である西山慎也(昭和23年12月3日生)と西山研士及び後妻の西山邦子である。

(7)  平成8年12月10日に調査官から家事審判官に対し調査報告書が提出されたが、その内容は、申立人に対して実施した調査の結果のみで、この結果によると、この段階で他の相続人らに対する調査を実施すると、混乱を大きくするおそれがあると考えられるので、他の相続人に対する調査は避けた旨説明されていた。

上記調査の過程で申立人から提出された文書のうち、照会に対する回答書、西山英樹作成名義の「叔母寺田加代介護の経緯メモ」と題する書面(以上平成8年12月3日当庁受付)及び加代の筆跡確認用の葉書(同年同月10日当庁受付)の各写しの内容は、別紙各該当文書の写しのとおりである。

(8)  しかし、当裁判所は、申立人からの事情聴取のみで本件申立ての当否についての判断をするわけにはいかないと考えられたため、再度、平成8年12月19日に、調査官に対し、調査事項を「各利害関係人(相続人)に対する意見照回(本件契約書の写し(封筒、印鑑証明書も添付)を添えて文書で回答を求める)」と記載して、事実調査を命じたところ、平成9年1月16日に調査官から家事審判官に調査報告書が提出されたが、その内容は、調査官が同年同月14日に当庁において今村弁護士から事情聴取したという結果の報告のみで、同弁護士の説明によると、他の相続人に対しては既に東京家庭裁判所において、担当書記官から、本件死因贈与契約証の写しも添付して、書面照会が実施されているとのことなので、当裁判所から重ねて照会する必要はないということなどが記載されていた。

上記調査報告書によると、今村弁護士からは、調査官に対し、次のような説明がされたようである。

1.被調査者と本件との関係

被調査者は、本件履行執行者の候補者である。

被調査者は、本件申立人の実父西山英樹が生前勤務していた○○設計事務所の顧問弁護士をしている関係から、申立人の実父に依頼されて被相続人の遺産相続の問題に関係するようになったものである。

2.東京家庭裁判所に現在係属中の被相続人の遺産分割調停事件の進行状況等について

○ H8年4月24日付で、本件申立人の実父西山英樹の代理人となって、被相続人の遺産分割調停を東京家庭裁判所に申立てている(東京家裁H8(家イ)2487号、家事部第2部2係、○○書記官担当)。

○ 相続人が申立人(西山英樹)を含めて16人もいる上、住所も各県にまたがっているので、H8年6月担当の○○書記官が各相続人に照会書を発送して回答を求めているが、その照会の折「死因贈与契約書」の写しも一緒に送付している。

………

○ 調停期日はこれまで次のように開かれており、次回はH9年2月25日午前10時にきまっている。

<1> 第1回調停 H8年9月6日

出席者は、申立人代理人(被調査者)のみ

<2> 第2回調停 H8年10月30日

出席者は、申立人代理人と上谷弁護士(中園芳子の代理人の1人)。

この席上、上谷弁護士から、死因贈与契約に基いて西山研士が不動産を拾得するので、西山研士がある程度の金を他の相続人に支払えないかとの打診があったが、申立人代理人はそれを断り、以後そのような主張はない。

(注)相続人の1人である中園芳子は、弁護士大森勝己(××-××××-××××)と上谷(名不詳)弁護士に委任している。

<3> 第3回調停 H8年12月13日

出席者は、申立人代理人と中園芳子の代理人2名(大森、上谷弁護士)で、基本的には死因贈与の対象になっている不動産を除く現金、預金、株などを法定相続分に応じて各相続人が拾得することで大筋の話し合いがついている。

<4> 第4回の調停は、H9年2月25日に行なわれるが、東京家裁側はできれば東京都内に居住している2人の相続人(奥野麻子、大久保奈津)に調停に出席してもらうようにしたい考えでいる。

3.東京家庭裁判所係属中の遺産分割調停事件の相続人(相手方)の意向などについて申立人代理人の外に、中園芳子に代理人(大森、上谷両弁護士)がついている。

○ 天宮恵(相1)~争う気持はなく、不動産を除く現金、預金等を法定相続分もらえればよいとの考えである。

○ 中園芳子(相2)~弁護士の代理人を立てている。

○ 真木千鶴子(相3)~中園は真木千鶴子(相3)と共に、軽井沢の方に被相続人名義の不動産があると主張したので、申立人代理人が調査した所、群馬県吾妻郡○○村にかつて原野2筆(680m2と728m2のもの)を被相続人が所有していたことがあったが、H3年1月に他に売却していることが判明し、中園、真木も納得している。中園、真木とも、死因贈与契約については、特に異をとなえていない。

○ 長沢敦史(相4)~裁判所に取扱いを一任する考えである。

○ 大久保奈津(相5)~同上

○ 渡辺栄都子(相6)

○ 皆川萌子(相7)3人とも死因贈与契約書が正当なものか

否か疑問とし、又調停への出席も出来ない

と回答している。

○ 本居雅子(相8)

○ 加瀬百利子(相10)~裁判所の取扱いに一任する考えである。

○ 坂本忠義(相11)~同上

○ 坂本武(相12)~同上

○ 奥野麻子(相13)~裁判所の取扱いに一任する考えである。

○ 坂本悟(相14)~同上

○ 坂本成行(相15)~同上

○ 近藤万紀子(相16)~同上

4.被調査者の意見

○ 東京家庭裁判所でも解決できる所から始めたい考えで、東京家庭裁判所のすすめもあって本件申立てをしたものである(当初関連事件として東京家裁に申立てる予定だったが、一応管轄が熊谷支部にあると言うことで、熊谷支部に申立てることになった。)。

○ 被調査者は勿論、死因贈与履行執行者に選任されることを希望しているので、選任されれば登記手続に入りたいと思っている。そして、もし無効など主張する者が出れば、受けて立ちたい(訴訟などで)。

5.贈与契約書を被相続人に代って作成した西山英樹の人物等について

○ 本贈与契約書作成の経過は、本申立人(西山研士)がH8年12月10日の調査の折提出している「叔母寺田加代介護の経過メモ(西山英樹記)」に記載されている通りであるが、西山英樹(本申立人の実父)は、被相続人と同じ埼玉県内に居住して日常の交際も非常に親密で、被相続人が病気入院した際は、西山英樹が家政婦を手配し、その費用も被相続人の預金、印鑑をあずかって支払うなど、被相続人に全面的に信頼されて行動している。

○ 西山英樹は、建設省の技官など歴任したあと、東京の○○設計事務所に勤務、H8年11月23日現職(死亡時相談役)で死亡したが、生前遺言状を作成しており、その中で自分(西山英樹)の遺産と本被相続人(寺田加代)の遺産をきちんとしゅん別して混同することのないように注意書きをしているように、公私の区別をきちんとした人物で、不正など考える人ではない。

○ 西山英樹が、被相続人が入院中から、葬儀(西山英樹が喪主になって○○聖公教会で挙行している)にいたる収支状況を別紙の「現金入出金管理表」、「看護婦・家政婦紹介所預託金収支調書」、「家政婦賃金」、「葬儀関係費用」に詳しくワープロで作成しているので、西山英樹の人物、人格を知る参考資料として提出する。

○ なお、贈与契約の受贈者になっている西山研士(本申立人)は、被相続人が生存中非常に可愛がっていたようである。

6.被相続人の遺産の管理の現況について

○ 不動産を除く、現金、預金通帳、株券などは、被調査者(今村弁護士)が貸金庫に保管している。

○ 建物は、現在カギをしめて、空家の状態になっている。

(9)  そこで、当裁判所は、東京家庭裁判所に対し、各相続人の回答書(本件死因贈与契約証に関する記載のないものは除いた。)の写しの送付を嘱託したところ、下記5通の回答書の写しが送付されてきた。そのうち本件死因贈与契約証ないし死因贈与に関する記載は下記のとおりであった。

<1> 中園芳子の回答書

「あまり面識のない研士さんに贈与されたいきさつをお聞きしたいです。ちょっと腑におちません。」

<2> 真木千鶴子の回答書

直接の記載はないが、遺産分割の対象とすべき遺産の範囲については争う旨の記載並びに「出席して話したい。」「代理人(弁護士)を立てる。」との各記載がある。

<3> 渡辺栄都子の回答書

「別紙<2>については、何となく納得できません。」

<4> 皆川萌子の回答書

「別紙遺産目録1、2については疑問をいだいて居ります。お調べ下さい。(確かに遺贈されているかどうか)」

<5> 本居雅子の回答書

「別紙2について少し分からない点がありました」

2  上記事実関係も総合すると、結局のところ、本件死因贈与契約証については、仮にその署名部分が亡加代自身の筆跡であるとしても(実際は、亡加代自身の筆跡と認めるに足りる証拠もない。申立人から提出された葉書の文字を右契約証の署名の文字と同一人の筆跡と判断するのは困難であり、同契約証の署名の筆跡は別紙照会に対する回答書中の問11の部分及び同回答書添付の相続関係図の表題部分の各「寺田加代」の文字によく似ているように思われる。)、ワープロないしパソコンで印刷された本文の部分については、申立人は、亡加代から頼まれて申立人の実父がワープロで印刷し、亡加代がその内容を確認の上署名した旨説明しているものの、申立人のこの説明内容を真実と認めるに足りる証拠はなく、東京家庭裁判所に係属中の別件調停事件においても、当事者の中には、本件死因贈与契約証の真否の程について疑問を呈している者もいること、更に、仮に本件死因贈与契約証に記載されている署名が真実亡加代の署名であるとすれば、このように力強い立派な字を書くことができた亡加代がなぜ自筆の遺言書を作成するという方法をとらず、後から作成の真否について疑われるような本件死因贈与契約証の作成という方法をとることにしたのか、誠に不可解というほかなく、亡加代の生存中に申立人が希望する内容での遺言書の作成にまで至らなかったことから、申立人ないしその関係者が亡加代の生前に亡加代に無断で又は亡加代死亡後に、(仮に署名が真実加代のものであるとすれば)生前亡加代にさせておいた署名を利用するなどして、本文の部分にワープロないしパソコンによる印字をして、本件死因贈与契約証なるものを作成し、これを亡加代作成の文書と主張するようになったのではないかという疑いも生じる(申立人から提出された西山英樹作成名義の文書は、すべてワープロないしパソコンによる印刷で、このようなものを名義人が真実作成していたとは考えにくい。)こと、こうした点も考慮すると、申立人及び本件申立書に死因贈与履行執行者の候補者として記載されている今村弁護士(東京家庭裁判所の別件調停事件では本件申立人の代理人)の一方的な説明を鵜呑みにして、本件死因贈与契約証をその本文も含めて亡加代の意思に基づく真正な文書と認め、本件申立てに係る死因贈与履行執行者の選任をするのは、結局のところ、実際は不確かなものに裁判所のいわゆる「お墨付き」を与えてしまう結果となるもので、どう考えても相当でないと判断せざるを得ない。

3  よって、本件申立てについては、これを却下することとし、主文のとおり審判する。

(別紙)

不動産死因贈与契約書

貴殿との間に、下記不動産を貴殿に贈与することを約束します。ただしその効力は私が死亡した時に生ずることとします。

以上後日のため本証作成し差し入れておきます。

(不動産の表示)

1.土地

埼玉県熊谷市○○×丁目××番地

宅地 648.36平方メートル

2.建物

埼玉県熊谷市○○×丁目××番地

幼稚園 木造 瓦葺 平屋建 126.28平方メートル

居宅 物置 木造 瓦、亜鉛メッキ鋼板葺弐階建

壱階 136.31平方メートル

弐階  64.61平方メートル

平成7年5月20日

大宮市○○町×丁目×××番地の×

受贈者 西山研士殿

埼玉県熊谷市○○×丁目××番地

贈与者 寺田加代

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